金管楽器吹きからも聞く悩みですが、音によって口が動くことを気にする人は多いです。楽器の先生から「口を動かさないように」と言われることもあります。
金管楽器の場合、動きは洗練されていくうちに減っていくパターンが多いので、最初から口を動かさないように吹くようにすると、必要のないところに力が入ってしまったりしてむしろ吹きづらくなってしまうことが多く、ぼくはあえて「自分から動かそう!」と言うことも多いのですが、今回のクラリネット吹きの方の場合は少し違いました。
スラーで吹いていても動きはなく、
テヌートタンギングでも動きはないのに、
スタッカートを吹くときだけ口が動く。
レッスンを進めていくうちにわかってきましたが、響きを気にして自分で響きをつくろうとしていたことが原因だったようです。
口が動く→動かないようにする→◯?
普段クラリネットの先生に習っていて「スタッカートのときだけ口が動くから、動かないように」と指摘されたことをきっかけにレッスンに来てくれました。
クラリネットの先生には「私はなったことがないからどうしたらいいかわからない。鏡を見て練習して」と言われたそう。
・・・。
・・ぼくも初めて聞いた悩みでした。
楽器を吹くたびに口が動いてしまう人なら何人も見てきましたが、特定のアーティキュレーションを吹くときだけ、というケースは出会ったことがありません。
そもそも口が動くことがいけないのか、という点ではぼくの考えだと、『演奏上問題なければいい』と思うタイプなのですが、先生から指摘され本人も動かないようにしたいのであれば、一緒に考える必要があります。
悩んでいる本人は「鏡を見ながら動かないように練習していますが、どうしても動いてしまいます」とのこと。
動いているから動かないように気をつける。
一見合理的な考え方に感じますが、ぼくはこの考え方はあまりいい結果を招くことはないと思っています。
なにしろ理由があって必要があって動いている場合がほとんどだからです。その動きを止めるようにしてしまうと、余分な力みにつながったり、吹きづらくなってしまうことは十分考えられます。
観察とシングルリードのタンギングについて
音階を、スラー、テヌート、スタッカートと吹き分けてもらいました。確かにスタッカートのときだけ口が動いています。
最初はタンギングのやり方が関係しているのかもしれないと思いました。
金管楽器の場合、息自体を舌でせき止め、舌を離すことで息が流れ出、唇を通り唇を振動させ、その振動を楽器が増幅させ音が出るのですが、シングルリードの木管楽器は息の通り道を舌でさえぎることはありません。
シングルリードの木管楽器は、リードの振動を舌で止め、舌を離すことでリードが振動し始め音が出ます。では息をどのタイミングで出しているか。
息が先に出ていて、舌で振動を止めている状態から舌を離す
か
息を出すのと舌をリードにつけ離すのがほぼ同時、なのか
これによって結果は違ってきます。本人に聞いてみたところ「前者のやり方でやっています」とのことでした。
ぼくは後者のやり方でタンギングをしているため口が動いているのかと思っていましたが違ったようです。
ーーー
再び音階を吹いてもらいました。
「テヌートタンギングで音階を吹いてみよう。その後テヌートタンギングの音を少しずつ短めにしていったらどうなるかな」と提案しました。(これならスタッカートに近くなるし、口も動かなくなるかもしれない)、そう思ったのですが、吹いてもらうと口が動きました。これまた違ったようです。
発想が安易だったかも知れません。別の方法を考えることにしました。
提案がうまくいかなければその考えにこだわりすぎず、次のやり方を考えるようにしています。
どんな口の形で吹いているか
吹いているときの口の中の形、舌の位置、について話してみることにしました。
本人のなんとなくのイメージと、提案する側の想像力と言葉のかけ方が重要になってくる場所の話です。
「スタッカートのとき、例えばひらがなのタ行だったら、どの言葉の口の形をして吹いているように感じますか?」と聞くと、
「トの形で吹いているような気がします」とのこと。
音域によって口の中の形も変わってきますが、先ほどから吹いてもらっている音階は、中音域。普通に使う口の形としては少し縦長すぎる(広すぎる)気がします。
「なぜ、トの形で吹いているのか、思い当たることはある?」と聞くと、
「スタッカートをいつもの口で吹くと響きが少ない音になるので、トの口で口の中を広げ、響きのある短い音で吹けるようにしています」と教えてくれました。
少し見えてきました。
ぼく自身も長い間悩んでいたことと関係があるかもしれない、そう思いました。
金管楽器でも通常の音域であったり、高音域に差し掛かるとその場で自分の耳に聞こえてくる響きが少なくなるのが気になって、口の中を意図的に広くする吹き方を選んでいる人は多くいます。はい、昔のぼくです。
でもその結果、細かな動きはやりずらくなったり、負荷のかかる吹き方をせざるをえなくなったり、近くでは響きが増えたように聴こえても遠くには響かない音になってしまったり、口の中の形を必要以上に変えるのは、様々な弊害もあるのです。(関連記事:演奏時、口の中を必要以上に大きくしてる無駄さに15年経って気づいた話)
ここで「口の中を狭くして吹いてみよう」という提案もできますし、起きてほしいこととしても間違っていないのですが、この言葉かけだとどのくらい狭くしたらいいのか程度がわからないので、具体的に伝えてみました。
今回の場合は「『トゥ』と言いながらスタッカートを吹いてみよう」と提案しました。
吹いてもらうと口の動きがほとんどなくなりました。本人も変化を感じてくれています。
スタッカートのときだけキツい音になるのを防ぐために口の形を変えて吹いていたことが、口が動いている状態につながっていたようです。『トゥ』の口で吹くと、本人的には(少し響きが減っているかも)と感じているようぼくはそうは思いませんでした。他の人にも聞いてもらうと、「響きが少なくなっているようには聞こえないよ」と意見が一致しました。
本人が思っているほど響きの少ない音には聞こえていないことを本人もわかってくれたようだったので、ひとまずその吹き方で引き続き取り組んでもらうようレッスンを終えました。
おわりに
動いてしまう→動かないようにする
こういった考えはいろんな不具合を招きかねないのでぼくは、なぜ動いているのか、に着目するようにしています。
なぜ動いているのかがわかったら、その動きは今のその人に必要なものなのか一緒に考える。必要そうでなければ変えていくために、自分で練習するときにもできるようなやり方・考え方を提案する。その場でできても自分一人になったときどうすればいいかわからなければまた迷路に入ってしまうことも多いですからね。
後日その方がクラリネットの先生のもとへレッスンに行ったところ、「よくなったね、その調子」と言われたそうです。
それではまた。
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