鼻抜けに悩むトロンボーン奏者とのレッスン

楽器演奏に携わる人をときたま悩ませる、鼻抜け。

経験したことがある人もいるかと思います。

通常、吹奏楽器は楽器演奏時、口からしか空気はでませんが、何らかの原因で口の中と鼻を区分けしている弁がうまく仕事をしなくなってしまい、鼻からも息が抜けてしまう状態が「鼻抜け」と呼ばれています。

ぼくは今回初めて鼻抜けでお悩みの方とレッスンをしました。

試行錯誤しながらも、3ヶ月の間の3度のレッスンで症状が改善したので、起きたことをお話しします。

今回のケースは、常に必要以上に口腔内の圧力を高めて演奏していたことが原因のようでした。それに伴い、必要なだけの圧力で吹奏できるようになるであろうエクササイズを提案したところ、状態が改善しました。

周りで見聞きしていた鼻抜けと今回のケースの違い

ぼく自身は鼻抜けが起きたことはありませんが、話に聞いたりこれまで実際に鼻抜けが起きている方の演奏を見たりしていての、鼻抜けに関して持っていた情報は以下の通りでした。

  • 大きな音を出すと起きる
  • 高音で起きる
  • 長時間演奏しバテてくると起きる
  • 度合いによっては演奏不能になる
  • 苦しい

 

ですが今回お会いした鼻抜けの方は話を聞き、演奏も聞いた限りでは以下の状況でした。

  • ある条件で鼻抜けが発動するわけではなく、音を出している間どんな音域でも音量でも、常に鼻抜けの状態
  • 小さい音ほど息が抜けている音がする
  • 演奏不能にはならない
  • 楽器をはじめた当初から鼻抜けしていたが、最近抜けている息が増えてきている(この方はトロンボーンをはじめて2年目)
  • 苦しくはない(本人談)

 

初回のレッスンでは、ヒアリングをしつつ実際に演奏もしてもらいましたが、原因も対処もわかりませんでした。

鼻抜けの状態で感じることを本人に聞くと、「鼻の周りに息がまわっている感じがする」とのことでした。

今まで見聞きしていた鼻抜けとは少し違うように感じました。それに「どんなに小さな音でも鼻抜けが起きている」という点も気になりました。

口腔内のことに関して専門的な知識があるわけでもありませんし診断ができるわけでもないので、まず医療機関での診察をおすすめしました。

というのも知識として、鼻咽喉閉鎖機能不全というものがあるとなんとなく知っていたからです。(もっとも、その方は鼻咽喉閉鎖機能不全の特徴として挙げられている、話し言葉が聞きづらい、はっきりと聞きとりにくい発声等はありませんでした。診察をお勧めしたのは、あくまで可能性の話です)

2度目のレッスン

1ヶ月ほど経ち、2度目のレッスン。
医療機関で診察してきたことを教えてくれました。

「口腔内と鼻を区分けしている弁の機能には問題がみられない」
「日常で生活する分には影響なし」

という検査結果だったそう。

となると楽器演奏時に何かが起き、鼻抜けになっているということなのでしょう。話を聞いた後、楽器を吹いてもらったり話をしたりしながらレッスンを続けていきました。

 

◇◆◇

観察しているとどの音量でもどの音域でも、もっと少ない力で演奏できそうなのにも関わらず、いつもずいぶんがんばって吹こうとしているように見えました。

 

どういうことかと言うと楽器から音が出るまでには、

  1. 楽器を構え、
  2. マウスピースを口に持ってきて、
  3. 息を吸い、
  4. 口の準備を一瞬し、
  5. 吹奏する。

という一連の動作があります。
その動作の中、この方の場合、

  1. 楽器を構え、
  2. マウスピースを口に持ってきて、
  3. 息を吸い、
  4. 口の準備を一瞬し、←ここで口の中に息を必要以上に溜め込んでいる
  5. 吹奏する。

音量や音域に関わらず「音を出す」一連の動作の中、4の時点で、常に必要量以上に大量の息を準備し、吐こうとし吐いているようにみえました。

鼻抜けのトリガー確認

何がきっかけで鼻抜けが起きるのか確認することにしました。

まず楽器を持たず、息だけ吐く。
→鼻抜け起きず

楽器を持たず、吹く口を作った状態で息を吐く。
→鼻抜け起きず

息は吐いている状態のまま、マウスピースを口につける。この時息は吐き続けている。
鼻抜け発生

 

少しわかったことがありました。
マウスピースが口につくと、音を出すために反射的に必要(そう)な口腔内に圧力を作り出そうとし、グッと負荷がかかり、音を出そうとすると同時に鼻抜けが起きるようです。

なぜ()を付けたかというと、出したい音に対して通常必要な圧力よりも、必要以上に圧力を作っているように見えたからです。

考察

また、吹奏時のアパチュア(息の出口)を観察していると、マウスピースを口に持ってきてから音を出すまでの間、一度も唇が閉じる瞬間がないようにも見えました。楽器から音が出るまでの動作の中で一度も唇が閉じる瞬間がない場合、ぼくの経験上出したい音に対してアパチュアが大きすぎる場合がほとんどです。

そこから推測できたのは、
息の出口(アパチュア)が、出したい音を出すために最適な状況よりも大きいため、余分に息量と息の圧力が必要になり、本人も気づかないうちに必要以上の負荷を口腔内にかけた結果、何かがきっかけになって口と鼻を区分けする弁が機能しなくなり、鼻抜けが起きているのではないか、ということでした。

このことから、
息の出口のサイズを最適化できるようになるエクササイズを提案し、少ない息でも効率よく唇が振動する状態ができれば、口腔内の圧力が今より少なくても楽器が吹けるようになる。そのまま継続して演奏に必要な最低限の口腔内の圧力で演奏し続ければ、徐々に弁の状態を調整できるようになり、症状は改善していくのではないか、こう考えました。

対処

2回目のレッスンで、こちらの練習を普段のメニューに取り入れるよう提案しました。

はじめの5分取り組むだけで自分史上1番いい音で練習を始めることができるマウスピース練習

この記事では、少ない息で効率よく反応する唇の使い方について書いています。

提案直後にこのマウスピース練習に取り組んでもらいましたが、この時点ではまだ鼻抜けは起きていました。

マウスピースだけの吹奏でも、音が出なかった時に音を出そうとしてグッと息圧を増やすクセが本人にあるように見受けられ、そうなると必要以上に口腔内の圧が高くなり、口と鼻を区分けする弁が機能しなくなって鼻抜けが起きてしまうようでした。

 

「このマウスピース練習では音は鳴らなくてもOK。唇が慣れてくれば少ない息の量でも音は鳴るようになるし、そうすれば今より楽に音が出せるようになるよ。少ない息の量で唇が反応するポイントが見つかればそのポジションで吹いてみるようにしよう」

そんなことを伝えて2度目のレッスンは終わりました。

3度目のレッスン

それから1ヶ月ほど経ち3度目のレッスン。

なんとこの方、前回まで鼻抜けに悩んでいたのに「鼻抜けはよくなったので今回は違うことで悩んでいます」とさらっと言ってくれました。

「ちょっと待って…!鼻抜けに関して話を聞かせて」と話を聞くと。

 

「先日の練習方法を続けてみたところ、疲れてきたり特定の練習をすると鼻抜けが起きることもまだありますが、通常の演奏では出なくなりました」とのこと。

実際演奏も聞かせてもらったところ、鼻抜けの音はまったく聞こえなくなっていました。

 

おわりに

今回のケースが鼻抜けで悩む人すべてに当てはまるわけではないと思います。

ですが少なくとも今回の場合、音が出にくい状態の中無理に音を出そうと(唇を振動させようと)して口腔内の圧を必要以上に増やしていたことがトリガーになり、なんらかの理由で鼻と口を隔てる弁が機能しなくなっていたようです。

過剰に圧力をかけ演奏していた奏法を見直し、音量や音域に合う必要な圧力を身に付けるべく必要な練習をし、体に少しずつ馴染ませていったことが鼻抜けの改善につながったのではないか、そう思える出来事でした。

 

 

 

 

それではまた。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

ごんざ ゆういち

国立音楽大学卒業。ホルン奏者。管楽器コーチ。 自身が長い間、心身ともに不健康な状態で音楽と関わってきた経験から「健康的に音楽しよう」をコンセプトに多方面で活動中。