楽譜の音楽用語を演奏者の経験にある言葉や感情に置き換えよう

どうもごんざです。
ある中学校でレッスンをしていた時のこと。
その日は冒頭に美しいコラールのあるマーチに取り組んでいました。とても丁寧な演奏で好感がもてましたが、音程やタテに気を使いすぎていて、少し音楽の流れやひろがりが足りない演奏に感じました。

音程やタテを合わせることは大切ですからそこを気にしつつ、何か変化を促せるものはないか、と考え、少し話をしました。

楽譜に書いてある言葉を演奏者たちが思い浮かびやすい言葉に置き換えることで演奏がガラッと変わった。そんな話です。

言葉の意味を調べても、それでわかったことにはならない

冒頭に美しいコラールのあるこのマーチ、冒頭に「おごそかな式典のコラール」と日本語で書いてありました。曲中の雰囲気やテンポは音楽用語で表現されることがほとんどですから、とても親切な楽譜です。

生徒に「おごそかってどんな意味?」と聞くと、
「気持ちが引き締まるほど重々しいさま、です」と答えてくれました。

ぼくもその場で調べてみると、検索結果の一番上に本文ままの説明がありました。ちゃんと意味調べてるのっていいことですよね。「Googleで意味調べて一番上のやつメモしたんでしょ!」と言ったら笑ってましたが。

次に「意味調べてるのはいいことだね。じゃあ『気持ちが引き締まるほど重々しいさま』ってどんな時?」と聞くと、考えてくれてはいましたが答えに困っていました。

そこでふと、(中学生にとって気持ちが引き締まるほど重々しいさまってのはどんな状況なんだろう)と思ったんです。

演奏する当事者の経験上にあるもの

ぼくら大人は「おごそかな場面をイメージして演奏しよう」と直で言って変化を促しがちですが、その言葉は本当に相手に伝わっているのか。大人になれば「気持ちが引き締まるほど重々しいさま」という場面は経験もしてきていますし、いくつも思いつきますよね。

ぼくが考えて一番に浮かんだのは、お客さんが入ったホールでの演奏会本番、指揮者がタクトを構え、お客さんが静かになり、曲がはじまるまさにその瞬間、これはまさに気持ちが引き締まる感じがします。重々しいかどうかは曲にもよりますが。

経験上にある場面に当てはめる

しかし相手は中学1、2年生。

おごそか…オゴソカ。。。ogosoka、、、

思いついたのは卒業式でした。

どうでしょう、中学1年生も2年生も経験しているでしょうし、おごそか感ありませんか?今思えば(重々しくはないかも)と頭をよぎらないこともありませんが、その場では卒業式案を採用しました。

「卒業式がはじまる直前の会場の雰囲気を思い出してみて。会場は人がたくさんいるけど静かで、緊張感が少しなかった?その場面を思い出して演奏してみよう」

そう伝えてから演奏してもらうと、不思議なほどガラッと演奏が変わりました。

 

言葉の意味を調べ、それを演奏者が想像しやすい場面と繋げて伝える。これはいいかもしれない、と思ってその後のレッスンでも試し続けました。

演奏者の経験上にある感情を見つける

この曲、「おごそかな式典のコラール」から少し進むと、その後には日本語で「勇者の誇りをたたえるファンファーレ」と指示が書いてありました。

そこで、「『誇り』という言葉はどんな意味?」と聞くと、
「誇ること。みずからそれを名誉とする感情、です」とこれまたきちんと答えてくれました。

(中学1、2年生で誇りを感じる瞬間とは…)とここでも考えこう話しました。

「意味はそれであってるね、じゃあ『みずからそれを名誉とする感情』ってのはどういう気持ちだろう。そうだね、例えば勉強をがんばったテストでいい点数をとれたときの気持ちかな。そのときの気持ちが誇らしい気持ちだよ」と言うと子供たち、にやにやしています。

どうやらその時の感情が湧いたようです。(ぼくはテスト勉強をがんばった記憶がないのでニヤニヤできませんが想像しました)

「じゃあテストでがんばっていい点数をとった人をおめでとー!ってほめる気持ちで吹いてみよう」と伝えて演奏してもらうと、これまた雰囲気がガラッと変わり高らかなファンファーレになりました。

演奏者の経験にある言葉を使う

おごそかな式典のコラール → 卒業式がはじまる直前の会場の雰囲気

勇者の誇りをたたえるファンファーレ → 勉強をがんばってテストでいい点数をとった人たちをほめる気持ちで

見比べてみると、ちょっと意味合いが違っている部分もあるかもしれません。ですが、ただ楽譜に書いてある言葉の意味を調べるだけよりも、本人たちが経験していて想像できる場面の言葉に置き換えたほうが、演奏にたくさんの変化がおきました。

今回は日本語の表記をさらに違う言葉に置き換えた例ですが、これは一般的に楽譜に書いてある音楽用語でも同じことができますよね。

Andanteと楽譜に書いてあれば、一般的には「歩くくらいのはやさで」ですが、それもその曲の持っている雰囲気や、調性や前後関係で変わってきます。実際にその曲を歌いながら歩いてみてもおもしろいかもしれません。

pesanteと書いてあれば「重々しく」ですが、

太った人が歩いているのか、
怒った人がドシドシ歩いているのか、
きつい斜面を一歩一歩登っているのか、

いろんな場面が浮かびますよね。その状況に合っていて、なおかつ演奏者たちが思い浮かべやすい状況はどんななのか。そんなことを考えながら伝えていく行程も、演奏には欠かせないなあと思うような時間でした。

おわりに

旅をしたり美しいものをみたり、映画を見たりするといいよ、というアドバイスって音楽してるとよく聞くんですがきっとそれは、いろんな情景や感情を心にためておいて、それを演奏でいつでも引き出せるために、なんだろうなってふと思いました。

え、そんなアドバイス聞いたことない?それは失礼しました。

身近な音楽用語、ぜひ自分ごとに置き換えてみてください。演奏するのがまた少し、楽しくなりますよ。

 

それではまた。