ある時レッスンで、トロンボーン吹きの高校生から「息がすぐに足りなくなるんです。何を吹いてもすぐにバテてしまう、どうしたらいいでしょうか」と相談を受けました。
本人はブレスをもっととろうとしたり、練習することで唇周りの筋肉を鍛えバテないようにしようと日々練習に取り組んでいましたが、今回の原因はマウスピースで覆われて見えない、息の出口の大きさにありました。
観察、推察
試しに、彼がその時取り組んでいたテンポの遅い曲を演奏してもらいました。めいっぱい息を吸って吹き始めているように見えました。しかし2フレーズも吹くと苦しそうな音になり音がかすれてしまっています。それに加えて音量の変化に乏しく、少し音色は重ため。
初対面でしたので緊張しているのかそれともコンディションが悪いのかとも思い、本人に聞きましたが答えは「NO」でした。
本人としては、
すぐ息が足りなくなる →もっと息を吸おう
すぐにバテてしまう →スタミナがない
そう思って普段から練習に励んでいるようです。
わかる。ぼくにもそんな時がありました。誰もがこういう思考になりますよね。
ただその時の生徒の演奏を見て聴いて、もしかしたら着眼点がずれているのかもしれない、そんな気がしました。
普段毎日部活で練習しているのであれば、どんなに激しいフレーズであっても2フレーズでバテてしまう、という状況は通常考えにくいからです。
息が足りない、とも悩んでいますが特別息の長いフレーズでもありませんでした。
となるとなにが問題なのか。
考察、提案
息の吸い方、体の使い方、そういったものも関係はしているかもしれませんが、そのときぼくが音を聴いて気になったのは、楽器を吹いている時の唇の息の出口の大きさでした。
トロンボーンはマウスピースが大きく、吹けばマウスピースで口全部が隠れてしまいますから、実際唇周りがどうなっているかは見えません。
ですが、音量の変化が乏しいことと、トロンボーンにしては少し重たすぎる音色に聴こえたことが引っかかったのです。
そこで、「息の出口の大きさについて、何か心がけていることや気にしていることはある?」と聞くと、
「はい!息の出口の大きさは小指の先くらいの大きさで吹けと言われているので、それを守っています!」と、元気に教えてくれました。
実際にマウスピースをはずして吹いてるときの口を見せてもらうと、息の出口は小指の先くらいのサイズ、というより小指は奥まで入るんじゃないか、というくらいの息の出口の大きさで、もはや口は開いている状態でした。
少し演奏経験のある方なら(それは大きすぎ、話盛りすぎだろ)と思うような話ですが、事実でした。これではいくらマウスピースの大きな楽器とはいえ息の出口、大きすぎますよね。
そのアドバイスは「例え」なのか「事実としてやっていること」なのか
トロンボーンの先生からのアドバイス、ということで生徒は実践していましたが、その先生はきっと「例え」で言ったのだと思います。
「息の出口の大きさを小指の先くらいの大きさだと思って吹いてみよう」とか
「息の出口の大きさが小指の先くらいの大きさでそこから太い息が流れ出すと思って吹いてみよう」 だとか、
きっとこんな感じでアドバイスされたのだと思います。
このケースのポイントは、このアドバイスが合ってるかどうかではなく、例えであったはずの表現を、事実としてやるべきことなのだと受け取り、真面目な生徒は疑いもせず、毎日実践していたことにあります。
これだけ息の出口が大きければ、唇を振動させるために息は大量に必要になりますし、息の出口の大きさを保つためには本来なら使わなくてよい余分な力も必要になるでしょうから、その結果バテるのも早いでしょう。小さな音もでにくければ音色も重くなる現状にも納得がいきます。
いろんなことに合点がいきました。
そこでこう提案してみました。
「楽器を吹く前は上唇と下唇を合わせ、音を出す直前は唇は閉じた状態で吹きはじめてみよう」
すると、
音色がガラッと変わり、音ののびも段違い、先ほどまで息が足りなく苦しんでいたフレーズも余裕で吹ききれました。
ここまで一瞬で変わるとは思ってもいませんでしたが、本人も聴いていた顧問の先生もびっくりしていました。
おわりに
息の出口の大きさに関して、厳密に「このサイズがいい!」というものがあるわけではないのですが、上下の唇を合わせた状態から吹き始めると、出したい音に適した息の出口の大きさになることが経験上多いので、今回の提案にいたりました。
息の出口の大きさに関係する練習は別記事でも紹介しています。 →はじめの5分取り組むだけで自分史上1番いい音で練習を始めることができるマウスピース練習
それと、先生としては「例え」で言ったアドバイスでも、生徒がどう受け取るかはわからないものですね。
「いいか、これは例えだからな、実際にやるんじゃないぞ」なんて普通わざわざ言わないですもんね。お互いのコミニュケーションて大切だな、と痛感した出来事でした。
マウスピースで覆われたリムの中の唇の息の出口の大きさ、あまり考える機会はないかもしれませんが、音が出る一瞬前は唇は閉じている方が、自分自身の経験でもレッスンでも、よい結果になることがほとんどです。
金管楽器奏者が音を出す一瞬前、マウスピースの中の唇が閉じてるか、それとも開いているか。これは音色やタンギング、息の持ち具合、スタミナなど、いろんな部分に関係してくる。自身の経験でもレッスンでも、音を出す一瞬前は唇が閉じている方がずっといい結果が待っている。
— ごんざゆういち (@Gonja_19) 2018年10月24日
あれ、考えたことなかったかも。 そう思った人はぜひ試してみてください。
それではまた。
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